はじめに
東大世界史の大論述って、何を書けば良いか分からず迷ったり、解答例や解説もイマイチしっくりこなかったりして大変ですよね。
私も、受験生時代には苦労していました。
しかし、どうにか受験を終えて東大生になり、定期試験で論文試験をたくさん受けたり、東大世界史の再現答案の採点基準作成と採点をするバイトを経験したりする中で、多少論述問題の書き方に気づきました。
私は手遅れですが、受験生の皆さんにはぜひ入試までに論述のポイントを押さえてほしいなと思い、この記事を書かせていただきます。
基本的な心構え
はじめに要点を3点ご紹介します。
- 問題文の熟読。
- 題意に忠実な答案構成。
- 構成に沿って整理された知識の配列。
以下、この3点を詳しく説明していきます。
問題文の熟読
採点基準は問題文の中に書いてある!?
しばしば「論述問題は採点基準が曖昧だ」と言われます。私も受験生時代には採点基準がよく分からず、それっぽい知識をやみくもに書き殴っていました。
しかし、それは違います。
東大世界史の大論述は、リード文を含めて、問題が丁寧に書かれていることが多いです。
そのため、問題文をしっかり読み込めば、採点基準のおおよその見当が付けられます。
熟読の基本は現代文!
みなさんは、現代文や東大日本史の問題では、問題文や資料文を丁寧に読もうとするでしょう。
にも関わらず、東大世界史の大論述になると、途端に問題文をいい加減に読み飛ばし、知識だけで解こうとしてしまう……という人もいるのではないでしょうか。
私はそんなよくない受験生でしたが、みなさんは、世界史の大論述でも、現代文と同じように問題文をよく読んでください。それだけでも、大論述の採点基準がかなり明確になるのではないでしょうか。
主題と副題の確認と整理をしよう!
これは当たり前ですが、まず主題の取り違えや勘違いのないようにしましょう。よく注意しないと、案外やってしまうものです。(例:18年度)
ついで、副題になっている「誘導」をきちんと押さえましょう。「以上のことを踏まえて」「〇〇に着目して」といったものです。これは答案構成で大変重要な情報になります。(例:21年度、20年度)
最後に蛇足ですが、東大世界史の大論述では主題や副題、指定語句含めてどこかに毎年何らかの「ワナ」のようなものがあるので、ワナへの警戒も怠らないようにすると良いでしょう。
近年で私が感じたのは以下の表の通りです。
年度 | 「ワナ」の例 |
---|---|
21年度 | 「宗教に着目しながら」とあるのに単なる政治史を書いてしまう |
20年度 | 「以上のことを踏まえて」とあるのに冊封体制から主権国家体制への理念と現実双方の変化が書けず比較ができない |
19年度 | 指定語句「ロンドン会議(1830)」をギリシア独立ではなくエジプトの方と勘違いする |
18年度 | 「女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について、具体的に」とあるが女性参政権が単に付与されたとだけ書いてしまったり具体的に書けなかったりする |
17年度 | 「以上のことを踏まえて」とあるのにローマと中国の比較をせずに通史を書いてしまう |
題意に忠実な答案構成
答案構成ができる=採点基準がわかる
ここまで「問題文を熟読せよ」と書いてきました。
では、採点者に対して「私はきちんと問題文を読み、採点基準を理解した上で答案を書いていますよ」と伝える方法は何でしょうか。
その唯一の方法が、答案構成をしっかり行うことです。
答案構成をおざなりにした答案は、読むとすぐに分かるものです。そしてその答案は「採点基準が分かってないまま無軌道に書いてるな」と採点者の目には映ります。
それではもったいないですよね。きちんと伝わる答案構成をしましょう。
答案構成の基本は数学!?
みなさんは、数学の問題を解く際には、「誘導」を丹念に読み解いた上で、筋道の通った答案を書くかと思います。
しかし、論述問題になると、数学で出来ていたことを忘れてしまうことが多いのではないでしょうか。
せっかく問題文を丹念に読み込み、誘導に気づいたなら、答案を書く前にきちんと誘導=採点基準に沿って答案構成を練り、採点者が採点しやすい答案を作成しましょう。
確かに、数学の答案では、誘導問題の(1)や(2)の誘導に乗らずに、最後の(3)で別の解法を使ったとしても、その解法が論理的であれば満点でしょう。
しかし、それは、かなり危険ですし、採点者からすれば「この人は誘導を見抜けない人なのかな」と不安になります。
また、世界史の論述では数学と違って「答えが論理的に出ればそれでよし」ということはあり得ないので、数学以上に誘導に乗ることが重要になります。
答案構成の類型
構成の方法には色々なものがあるかと思いますが、ここでは3通りの答案構成の類型をご紹介します。
第一の類型は、リード文に書かれている内容をそのまま具体化するものです。近年では21年度の問題が当てはまります。
第二の類型は、2×2や2×3などの表で比較するものです。近年では20年度の問題が当てはまります。参考として20年度の答案構成の例を示しておきます。
20年度 | 理念 | 現実 |
冊封体制 | 中国の皇帝が君主で周辺国の君主はその臣下(垂直的) 以下具体例 朝鮮やベトナム、琉球の朝貢 | 中国が周辺国にそこまで干渉不可(水平的) 以下具体例 朝鮮の小中華思想 ベトナムの君主は皇帝を自称 それらを中国は放任 |
主権国家体制 | 主権国家は対等(水平的) 以下具体例 列強と各国は条約を結んで外交関係樹立 併合であっても対等な国家間の合意による条約が基礎という建前 | 列強が不平等条約の強要、植民地化(垂直的) 以下具体例 南京条約 清仏戦争でベトナムが仏の植民地に 下関条約で韓国が日本に従属 |
第三の類型は、多くの地域の事例等を幅広くバランスよく記述するものです。近年では19年度や18年度が当てはまります。
以上の類型に当てはまらないものや、類型の複合型もあるかと思いますが、みなさんも問題を読み込む中で、自分なりの答案構成の型を練ってみてください。
構成が上手く行かない時には…
答案構成が大事だ、とは言ったものの、どうしても構成方法が分からないという事態もあるかと思います。そんなときには、以下の3点を意識してみましょう。
第一に、問題文に立ち返ることです。
問題文を読み返すことで、一読しただけでは理解しきれなかった要求や論点に気づけるかもしれませんよ。
第二に、問題文が強調している視点や観点にできる限り寄り添うことです。
たとえば、20年度の問題では、「現実と理念の両面で変容…以上のことを踏まえて」の記述から、現実と理念の比較という観点が読み取れます。
すると、「理念はこうだが現実にはこうだった」という書き方をすれば良いことに気づけるでしょう。
第三に、「小問集合」にできるだけ分割して、分割できた部分だけとりあえず書いてみることです。
21年度の問題を例に取ると、「征服者と被征服者」で「ゲルマン人とローマ人」や、「ムスリムとキリスト教徒、ユダヤ教徒」など、ひとまず一問一答のように回答できるところだけ回答してみるイメージです。
構成に沿って整理された知識の配列
構成各部分の具体的情報を列挙
答案構成ができたら、あとはその枠の中に適切な情報を入れ込んでいきます。
その際に注意してほしいのは、ひとつの部分だけ情報量が多すぎたり、逆に少なすぎたりすることがないよう、バランスを取ることです。
また、具体的な知識を枠組みの中に当てはめていく際には、指定語句のミスリードに注意しましょう。指定語句はひとつの部分に偏っていることも多いので、指定語句だけでは漏らしてしまう部分がないか、よく確認するようにしてください。
知識を不用意にひけらかさない
しばしば答案で細かすぎる知識を書いている人がいますが、あまりお勧めはできません。
なぜなら、「書くべき知識の優先順位付けができておらず、やみくもに書いている」という印象を読み手に与えかねないからです。
加えて、解答の各要素の分量と詳細さは、均一にしないとバランスが悪くなってしまいます。
20年度の問題を例に取れば、冊封体制の現実に関する記述だけやたら細かくて、主権国家体制の記述がお粗末では、高得点は望めないでしょう。
くれぐれも細かい知識に引きずられて脱線することがないよう、気を引き締めるようにしてください。
まとめ
第一に、問題文を丹念に読み込むことです。きっと採点基準=答案構成が見えてくるかと思います。
第二に、熟読して析出した採点基準をきちんと反映した答案構成をすることです。せっかく問題文を読み込んでもここで失敗すると台無しです。
第三に、答案構成の枠組みに沿って適切な知識を引き出し提示することです。ここで不用意に細かい知識を出して全体のバランスを崩したり、要求から脱線しては元も子もありません。最後まで気を引き締めましょう。
おわりに
ここまでお読みくださりありがとうございます。
この記事を参考にして、実際に頭を働かせ、手を動かし、一年分解いてみてくださったら、とても嬉しいです。
この記事では私なりの、一つの理想的な論述法を述べてみました。しかし、実際の東大受験では、「ベストな答案」ではなく「ベターな答案」を書くという方が感覚としては近いかと思います。
ただ、試験本番でベターな答案が書くには、普段の練習でベストな答案を目指すのが良いでしょう。まだ時間がたっぷりある今、ひと踏ん張りしてみてはいかがでしょうか。