はじめに
こんにちは。
私は、東大受験で英語の他にフランス語も使いました。
どういうことかというと、私は浪人期にフランス語を独学し、東大の英語試験では後半部分をフランス語に差し替えて受験しました。
この記事では、私のマイナーな経験を踏まえて「東大仏語差し替え受験」というあまりメジャーではない選択肢の旨味は何か、適性のある人はどんな人かをお伝えし、最後に若干の参考として教材についてご紹介します。
なぜ仏語差し替えか
まず、みなさんの頭には「なぜフランス語に?」という疑問が浮かんだことでしょう。ここでは大きく分けて3つの理由をご紹介します。
1. 問題の分量が少ない
東大英語の大問4と大問5では、たくさんの問題が出題されますが、英語以外の外国語(独仏中韓)の大問Ⅳと大問Ⅴに差し替えると、分量が少なくなります。
フランス語の大問Ⅳでは、10行程度の文を和訳します。大問Ⅴでは、短文5つを書き換える文法問題が出題されます。
簡単に言えば、英語の大問4の和訳問題と文法問題をそれぞれ大問にして和訳の分量を下線部から全文に、文法問題をより基本的なものに改め大問5を削除した感じになります。
かなり魅力的ではないでしょうか?
2. フランス語はそこまで難しくない
「フランス語は難しい言語だ」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。
しかし、英語既習者にとってフランス語は大変とっつきやすい言語です。
フランス語は、単語も文法も英語と非常に良く似ています。
たとえば、
仏:L’objectif de la diplomatie est de maintenir le paix.
英:The objective of diplomacy is to maintain peace.
いかがでしょうか。ほぼ一対一対応してますね。
そのため、勉強する上で、英語と違っているところと英語には存在しないものにだけ力点をおけば、効率的に受験レベルに到達することができます。
また、規則性が高いので、ある程度慣れてくると勘に頼ることができるのもオススメのポイントです。
3. 初修詐欺という制度の穴
ここでは、大学入学後のメリットをご紹介します。
東京大学では、外国語を二つ必ず履修することになります。
ほとんどの東大生は第一外国語に既修英語、第二外国語に初修のドイツ語、フランス語、中国語、韓国朝鮮語、イタリア語、スペイン語、ロシア語のいずれかを選択します。
東大入試では、出願時に「外国語」の科目で使用する言語を英語、ドイツ語、フランス語、中国語から選ぶのですが、この際に選んだ言語は、入学後「既修〇〇語」しか取れません。
たとえば、出願時にフランス語を選んだ人は、入学後に「初修フランス語」を取ることができません。
しかし、英語に代えて差し替えた言語はなぜか「初修」を取れてしまうという制度の穴が存在しています。これは次のような理由によります。
差し替え制度を用いる際には、出願時は英語選択として出願しなければなりません。
そして、既修の判定は出願時に行っているので、試験会場で試験開始後、自由に選んで差し替えるフランス語は、大学受験時に未修扱いとなり、大学入学時に「初修」として申請可能になります。
ともかく、仏語差し替えをしてもなぜか初修フランス語を履修できてしまう制度の穴を突けば、他の東大生が苦しむ第二外国語で苦労せずに済みます。
仏語差し替えはこんな人にオススメ!
もちろん、向いていないから選んではならないということは全くありません。
そこは各人の自由な選択ですし、個人的にはそういう人はむしろ好きです。
「遠回り」な選択が案外(受験ではなく)人生を豊かにするというのは、しばしばある話ですね。
1. 「そこそこ」英語ができる人
ここでいう「そこそこ」とは、ざっくり言うと、すでに基礎が固まっていて、真剣に過去問演習を重ねていけば、十分東大の二次試験で及第点は取れる程度のことです。
英語の基礎力がなければ、まずは英語を「そこそこ」レベルにした方が賢明でしょう。
結局のところ、英語を「そこそこ」レベルから「体得」レベルに持っていくのが好きか、フランス語をゼロから「そこそこ」レベルに持っていくのが好きか、という好みの問題になるかと思います。
2. 受験まで一定の勉強時間が用意できる人
英語のレベルよりも、勉強時間を確保できることの方が重要かと思います。
英語の基礎力があり、それを仏語に流用して効率化できるにしても、新たに一言語を学び、かつそれを受験レベルに持っていくには、少なくとも200〜300時間は見ておいた方が賢明でしょう。
私は、短期集中で5月の連休明けから6月上旬にかけて街の図書館で1日10時間フランス語を勉強する生活を1ヶ月程度続け、結局400時間程度は仏語に費やしました。
3. 覚悟のある人
本質的には覚悟があるかどうか、という点が重要ではないかと思います。
ここでいう覚悟というのは、敢えてマイナーな選択肢を選んだということの帰結に対して、それがどのようなものであれ、きちんと受け入れる用意があるということです。
平たく言えば、差し替えというマイナーな選択をした結果東大に落ちても納得できるということです。あるいは「失敗してもそれで構わない」ということでしょうか。
教材について
英語は教材が大変豊富ですが、フランス語は英語と比べると教材が潤沢ではありませんし、先駆者があまりいないので、どれが良い教材なのか分かりづらいところがあるかと思います。
しかし、単語帳も文法書も使い方は英語とほぼ同じで、いろんなものに手を出すのではなく、一度決めたものを習得するまで使い倒すのが大切です。「つまみ食い」は語学ではお勧めしません。
以下に私が使っていた教材を記しておきますが、必ずしもこれが良いというわけではありません。参考程度に見てもらえればと思います。
文法書
私が使っていた文法書は以下の通りです。
問題集系統としては、
中村敦子『フランス文法はじめての練習帳』白水社
→基礎文法を網羅していて、かつ、難しすぎないのでテンポよく解き進められます。最初の一冊におすすめです。
権寧『フランス語文法問題の解き方 解説編』駿河台出版社
→『練習帳』の次に挑戦すると、復習しつつ中級〜上級レベルの知識も増やせて受験レベルに到達可能です。
辞典系統としては、
六鹿豊『NHK出版 これならわかるフランス語文法 入門から上級まで』NHK出版
→文法問題集を解く中で問題集の解説がどうにも分からないときに頼りがいがあります。
目黒士門『現代フランス語広文典』白水社
→NHK出版のもので分からない文法事項は『広文典』に載っていることが多いです。
単語帳
私が使っていた単語帳は以下の通りです。
久松健一『データ本位 でる順仏検単語集―5級~2級準備レベル』駿河台出版社
→一冊で対応するレベルが広く最初の一冊として便利です。
川口祐司他『仏検2級準拠[頻度順]フランス語単語集』駿河台出版社
→重要度の高いものから順に並んでいて便利です。ここまでで基礎単語は網羅できるかと思います。
久松健一/モーリス・ジャケ『仏検 準1級・2級必須単語集』白水社
→200字程度の例文が付いていて読解練習ができ、また、単語の意味や類義語、対義語など情報が豊富で便利です。
辞書
私は電子辞書を使っていました。紙辞書も持ってはいましたが、ほとんど使いませんでした。
ただ、紙辞書の方が見やすさの点で電子辞書よりも便利であるというのは否めないので、紙辞書も併用して、例文などで実際に「使える語彙」を増やすとさらに良いでしょう。
過去問について
赤本があります。ただし、最近のもの(2012年以降だった記憶があります)には掲載されていないので、古い赤本を買い求める必要があります。
私は、Amazonで中古の赤本を2冊買って、過去問を1996年から2011年まで揃えました。
もちろんですが、フランス語の問題は掲載されていても、その解答・解説はついていません。
そのため、出題意図を汲み取り自分で問題を解ける能力や、辞書と文法書を用いて完全な解答を作れる能力を養っておくことが、過去問演習の前提になります。
つまり、基礎学力を習得した後に過去問演習に入るのが無難です。他の科目と同じです。
おわりに
いかがでしたか。
大学受験でフランス語を使うというマイナーな選択が、どんな理由で決断されたのか、どのように勉強・受験対策をしたのか、お伝えできていたら嬉しいです。
最後に少しフランス語の豆知識を。
日本語で人を応援するときには頑張れと言いますが、フランス語ではBon courage! と言います。良い勇気を持ってくださいね、という意味合いです。
敢えてマイナーな選択肢を選ぶ方へ、Bon courage!