【大学受験】ストレス・不安との付き合い方【心理学】

地方高校生に、追い風を

はじめに

皆さんは、日頃ストレスを感じることはありますか?

おそらく、ほとんどの方が「ある」と答えると思います。日常生活の中には、ストレスの原因となるさまざまな出来事が存在するからです。

「受験」もその中の1つであり、受験生の皆さんにとっては人生における大きなイベントとなるので、特にストレスを感じやすいといえるでしょう。

「ストレス」と聞くと嫌なイメージがあるかもしれませんが、ストレスを感じるのは悪いことではなく、むしろ誰にでも起こる自然なことです。

そして、ストレスとの付き合い方はさまざまであり、この付き合い方がこころの健康を保つための鍵にもなります。付き合い方によっては、今よりも気持ちが軽くなり、落ち着いて受験勉強に取り組めるかもしれません。

この記事では、東大で心理学を専攻する筆者が、そもそも「ストレス」とは何かをご紹介した上で、「ストレスとの付き合い方」を考えていきます。

ストレスとは

そもそも「ストレス」とは何なのでしょうか。
ストレスについて知っておくことは、ストレスとの付き合い方を考える際の手がかりになります。
そこで、まずはそのメカニズムを知るところから始めましょう。

ストレスのメカニズム

ここからは、ストレスのメカニズムを考えやすくするために、受験生の皆さんがイメージしやすいような具体例をもとに説明していきます。

<Aさんの事例>

高校3年生のAさんが模試を受けたところ、判定が前回よりも悪くなっていました。
この判定を見てAさんは「私はもう合格できない......。」と思いました。しばらく一人で抱え込んでいたのですが、次第に焦りや不安を感じ、無気力になってしまいました。

この事例において、Aさんは「ストレスを感じている」といえるでしょう。
心理学において有名な理論である「ストレス理論」に基づくと、人間がこのような不快なストレスを感じる一連の流れは、以下のように説明できます。

1. ストレスのもとになる出来事(ストレッサー)が起こる
2. その出来事を自分なりに捉える(認知的評価
3. その出来事に何かしらの方法で対処する(コーピング行動
4. 結果的にマイナスな作用が生じる(ストレス反応

この流れに沿ってAさんの事例をまとめると、以下の図のようになります。

ストレスの強さには性格(パーソナリティ)も関わるため、個人差があります。ただ、ストレスが強いと、精神的に不安定になったり、体調を崩したりしてしまう可能性もあります。
そのため、ストレスとうまく付き合い、対処することが大切です。

ストレスとの付き合い方

上で紹介したメカニズムを踏まえると、ストレスとの付き合い方が分かってきます。
ここでは、筆者が臨床心理学の授業で学んだ技法を2つ紹介します。

1つ目は認知的評価に、2つ目はコーピング行動にアプローチするものです。
どちらも専門的な知識は必要としないので、気楽に読んでみてください。

認知的評価へのアプローチ「認知再構成法」

認知的評価へのアプローチとして、「認知再構成法」をご紹介します。
このアプローチでは、出来事の捉え方を柔軟にすることを目指します。

認知再構成法の手順

  1. 不快な感情を伴った具体的な状況を1つ挙げましょう。
  2. そのときの感情を表す言葉を挙げ、その感情の強さを0〜100%で評価しましょう。
  3. そのときに頭に浮かんだ考えを書き出しましょう。複数でも良いです。
  4. なぜその考えが浮かんだか、根拠を書き出してみましょう。
  5. 不快な感情が和らぐような別の考えをなるべく多く書き出しましょう。
  6. 別の考えを取り入れて不快な感情はどう変化したか、再び評価してみましょう。

Aさんの場合

たとえば、Aさんの状況を想定してこの方法を試すと、以下のようになります。

1. 状況模試の判定が前回より悪かった
2. 感情焦り100、不安90、無気力70
3. 頭に浮かんだ考えもう合格できない
4. 根拠自分の学力が足りていないように感じたから
5. 別の考え・この日は調子が悪かっただけかも
・自分の学力はたった1回の模試だけでは判断できない
・ここから逆転合格したらカッコいい
6. 感情の変化焦り100→70、不安90→60、無気力70→40

捉え方を柔軟にして気持ちが楽になると、自分の行動が変わり、新たな行動を起こせるようになるかもしれません。
それによって状況も変化し、気持ちがさらに楽になるという良い連鎖も期待できます。

コーピング行動へのアプローチ「問題解決療法」

続いて、コーピング行動へのアプローチとして「問題解決療法」をご紹介します。
このアプローチでは、多様な対処法を身につけることを目指します。

問題解決療法の手順

1. 問題を明確にしましょう。
Aさんの場合、判定がどれくらい悪くなっていたのか、どの教科のどの分野で点数が取れなかったのかなどを振り返ると問題が整理できます。

2. 他の対処法を考えてみましょう。
Aさんは「一人で我慢」していますが、他にはどのような対処法が考えられるでしょうか。第三者目線で考えてみましょう。
質よりも量が大事なので、なるべくたくさんアイデアを出すと良いです。

3. 実際に用いる対処法を検討しましょう。
現実的か、効果は大きいか、時間やお金などのコストはどれくらいかかるかといった観点でそれぞれの対処法を分析します。
その上で、実際に用いる対処法を決めましょう。

4. その対処法を実行するための工夫を考えましょう。
対処法を実行しようと思ったとき、障害となるものがあるかもしれません。
そうした障害を乗り越えて実行に移せるような工夫を考えましょう。

5. 実行し、その結果を評価しましょう。
実行してみることが重要です。失敗しても良いので、まずは試してみましょう。
そして、うまくいった点とそうでなかった点を整理し、今後に役立てましょう。

Aさんの場合

以下は、Aさんの状況を想定した例です。

1.問題を明確に        模試の判定が前回より悪かった
→B判定からD判定になった。数学の確率と図形の問題で大量失点してしまった。
2. 他の対処法 ・間違えた数学の問題を復習する
・先生に相談する
・塾に通う
3. 検討  ・間違えた数学の問題を復習する:◯
多少時間がかかりそうだが、今すぐできるので現実的。次は似たような問題で間違えなくなるかも。
・先生に相談する:△
効果はありそう。ただ、先生にダメだったところを話すのが恥ずかしくて実行するのに抵抗がある。
・塾に通う:△
効果はありそうだが、お金がかかるし親にも相談しないといけない。
→選んだ対処法:間違えた数学の問題を復習する
4. 工夫  ・間違えた問題が多くて面倒
→1日で全部やるのは疲れるので、2日に分けて半分ずつ解き直す。終わったら大好きなお菓子を食べる。
・答えを見ても解き方が分からない問題があるかも
→教科書やノート、参考書を読んで解き方を思い出す。それでもわからなければ、数学が得意な友人に聞く。
5. 実行と評価間違えた問題を全て復習できて達成感があり、不安な気持ちが落ち着いてきた。しかし、難しい問題にかなり時間をかけてしまい、疲れてしまった。
→復習したことで次回間違える問題は減らせるはず。それによって復習にかける時間も減らせそう。また、難しい問題は勇気を出して先生に質問をしても良いかも。

これはあくまでも例であり、他にもさまざまな対処法が考えられます。
また、先生に相談することに抵抗がない人は「先生に相談する」という対処法を選ぶかもしれませんし、今回挙げていない対処法を選ぶ人もいるかもしれません。

いずれにせよ、色々な選択肢を持ち、その中から自分に合ったものを選択することが大切です。

これらの方法を試すことがしんどい方へ

ここまで読み、「紹介した方法を試すこと自体がしんどい」と感じた方もいるかもしれません。

そんな方向けに、さらに簡単に試せる「呼吸法」をご紹介しておきます。
これは、呼吸に意識を向けることで心身の緊張をほぐしていくものです。

呼吸法の手順

  1. 楽な姿勢になりましょう。
  2. 膝かお腹の楽な方に手を置き、軽く目を閉じましょう。
  3. 4秒で鼻から息を吸いましょう。
  4. 6秒で口からゆっくり息を吐きましょう。
  5. 3〜4を繰り返しましょう。

この方法は短時間で気軽にできるものなので、ぜひ試してみてください。

おわりに

ここまで、ストレスとの付き合い方を紹介してきましたが、今回紹介したのは、多くの方法のうちのごく一部に過ぎません。
人によって向き不向きもありますし、紹介した方法が全ての人に効果的であるとは言い切れません。

しかし、「ストレスとの付き合い方を見直すと、今より少し気持ちが楽になって現状を変えられるかもしれない」ということをまずは知っておいてほしいです。

また、ストレスを抱えて悩んでいる場合、誰かに頼ることも大切です。

自分でなんとかするのは難しそう、自分に合った対処法が分からないというときは、スクールカウンセラーなどの心理の専門家に相談することをお勧めします。
きっとあなたの気持ちに寄り添い、ストレスや悩みへの対処法を一緒に考えてくれます。

専門家への相談がためらわれる場合、家族や友人、先生など、身近な人に相談してみるだけでも気持ちが楽になるかもしれません。
自分一人で解決する必要はないのだ、ということをぜひ覚えておいてください。

繰り返しになりますが、ストレスを感じて悩むのは自然なことです。
特に受験生の皆さんは、ストレスを感じやすい環境にあり、今後も悩むことが増えるかもしれません。

しかし、付き合い方を工夫すると、悩みに伴う不安や焦りを軽減できる可能性があります。
皆さんが、ストレスと自分なりに付き合い、受験を乗り越えていくことを祈っています。

参考文献

丹野 義彦・石垣 琢麿・毛利 伊吹・佐々木 淳・杉山 明子(2015). 臨床心理学(New Liberal Arts Selection) 有斐閣