【東大生に聞いた】向き合うことで得られるもの【文学部国文学専修】

地方高校生に、追い風を

工学部編から始まった、各学部の東大生へのインタビュー企画。第2弾は文学部編です!

「文学部」と聞くと、「日本や世界の文学を学ぶの?」と思われる方もいるのではないでしょうか。

しかし、東大文学部には27もの専修課程があり、歴史学や社会学など、幅広い学問分野をカバーしています。
今回はその中から、国文学、西洋史学、社会心理学を学ぶ方々にインタビューを行いました!

第1回はこの方です!

【プロフィール】※情報はインタビュー時のものです
・名前: Dさん
・学年: 3年
・学部・学科(専修): 文学部・日本語日本文学(国文学)専修
・出身: 愛知県・一宮高校


国文学専修での学び

── 今専修で学んでいることの内容を教えてもらえますか?

国文学専修では、文字通り「国文学」を研究しています。

日本語で書かれた文献全てを研究対象として扱います。時代は『万葉集』から近現代の文学に至るまで、ジャンルは歌謡や歌舞伎、演劇、思想・宗教の言説などにまで及びます。

── 授業はどのような形式で行われるのですか?

大まかに言えば、特殊講義演習に分かれています。

特殊講義は、「特殊」とついていますが、一般的な講義と同じです。

教員がある作品について解説したり、「文学史」といった何らかのテーマについて講義を行ったりします。教員の解説を聞きながら『源氏物語』を読む授業などがありますね。

もう1つが演習で、大学では「ゼミ」と呼ばれるものです。

国文学専修では、ある文学作品の担当部分について、辞書や先行研究を用いて言葉の意味や解釈などを調べ、自分なりに発表する、というものが多いです。

また、演習の授業は、1学期につき1コマは受講する必要があります。
文献を読み、調べ、自分の口で伝えるという過程を、国文学専修がいかに重視しているのかが分かるのではないでしょうか。


「読む」のも一苦労? くずし字の奥深さ

── Dさんが個人的に勉強している・したいと思っていることについても教えてもらえますか?

くずし字を読めるようになりたいなと思っています。
(資料を見せながら)たとえば、これは江戸時代の商家の書状です。こういったものを読めるようになりたいです。

── 大学では、くずし字を扱う授業があるんですか?

国文学専修の演習では、写本の画像データが与えられて、くずし字を読んでみようという授業もあります。

また、日本史学専修の「古文書学」という授業では、江戸時代や明治時代の史料を使ってくずし字を勉強します。

── くずし字には専用の教科書などがあるのですか?

くずし字の辞典やネットに公開されているデータベースで調べると、任意の字のくずし方の例を見ることができます。

はじめは1文字ずつ読む作業ですが、慣れてくると一般的なくずし方や頻出の字がわかってきて、徐々に文章を読めるようになります。

── 研究者気分が味わえて楽しそうですね。くずし字は外国語の勉強と比べてどうでしょうか?

発音やリスニングの必要がないので、外国語よりは簡単だと思います。また、書いたことがある字も多いので、筆で書いたときの省略を想像しながら読むと理解しやすいです。

よく使われる文字は、省略・記号化されて、「ありえない」と思うような崩し方になっていることもしばしばあります。

たとえば、江戸時代だと「候」という字が記号化されていることが多いです。


時代を越えた作者との対話

── 今学んでいることが社会で今後どんなふうに役立つと思いますか?

こんなことを言うと怒られそうですが、理系のように「この技術が……」というものはないので、目に見えて何かに役立つ、ということはないかも……?

もちろん、有名な作品の新しい解釈が出てきたとなれば、教科書が変わるかもしれません。でも、大学3年生の実感としては、実社会に結びついているものはあまり多くないと思います。

それでも、僕たちは研究をするときに、作者、登場人物、そこで構築されている世界、表現……いろいろありますが、それらに向き合っていくわけです。

それがいわゆる「作者とのやりとり」や「対話」であって、それに真面目に取り組んできた人たちが、価値観や表現力などを手に入れると思うんですよね。

── 「対話」をしながら得られるスキルや価値観があって、それらが社会で役立っていく、ということは確かにありそうですね。


多様な解釈を通じて広がる世界

── また個人的な話に戻るのですが、今学んでいることのどんな点に魅力を感じていますか?

いろんな認識や見方、解釈が可能な点でしょうか。

国文学は、作者が亡くなっていることも多いし、書き写しのものもあるので、書写のミスによって文が変わっていたり、そもそも統一的な成立なのかどうかすらわからないものも存在します。

でもだからこそ、「こういう根拠があるから、こんな解釈ができるのではないか」や「他の文献でこういうものが出ているから、この言葉はこれと同じような使い方なのではないか」というふうに、研究者によって様々な見方ができます

勉強すればするほど新しい見方を得ることができるし、自分でも新しい見方を示すことができるのが、国文学研究の面白さだと思います。

── 1つの文学に対しても複数の見方ができて、先行研究などで多様な見方を学ぶのが楽しいのですね。また、自分の見方を示せるというのは、文学研究に知見がどんどん付け足されていくといった感じでしょうか。ありがとうございます。


国語学とも日本史とも。他の学問との結びつき

── 他の学問分野で、専修で学ぶ内容と関連性が高いものがあれば教えてください。

大学の研究分野なら、国語学ですね。

日本語を言語として研究する学問が国語学なのですが、中でも日本語の歴史的変遷に関する研究は、国文学を扱う人も注意すべき内容が多いと思います。

たとえば、発音はこれまでずっと変化してきているんですよね。

半濁音(パピプペポ)は最初からあったわけではなく、室町時代あたりから成立したと考えられています。このように、日本語は歴史の中で変化しているんです。

和歌のような韻文を読むときは特に、「どう読まれていたか」なども理解できていれば、当時の人と近い考え方ができますよね。

── なるほど。他にはどうですか?

もう1つ関係が深いなと思うのが日本史学ですね。

その時代の背景、つまりどんな社会だったのかを知っておくと、国文学の作品を理解するのに役立ちます。

大きな戦乱があれば、文学にもその影響は及びます。ものを書く人たちの価値観が変わるんです。

今でも同じだと思いますが、時代が変わったり、大きな出来事が起こったりすると、価値観が変化し、書かれるものも変わってくるのではないでしょうか。

だから、その時代に何があったのかがわかる程度の日本史の知識があると役に立ちます。

── 日本語そのものや歴史的背景を学ぶ国語学・日本史学は、国文学と関係が深いのですね。高校までの学習内容で、今の専修と関連性が高いものはありますか。

もちろん、国語や日本史は関連性が高いです。

また、くずし字では草書体が使われていることもあるので、近世以前であれば書道なども関係するのではないでしょうか。

さらに、人々の考え方という点で言えば、倫理の思想史も多少は関係あるのかなと思います。

── 高校までだと書道や倫理の関連性も高そうということですね、ありがとうございます。


国文学か日本史か

── 次に進路選択についてです。まず、高校時代は大学や科類をどうやって選びましたか?

高校2年のとき、担任の先生に東大を受けるよう勧められたのがきっかけです。科類については、もともと日本史や国文学に興味があったので、文学部に行きやすい文科三類を選びました。

── もともと国文学に興味があったんですね。文学以外でも良いのですが、高校時代は他にどんな学問に興味がありましたか?

古文漢文、日本史が好きでした。特に、辞書を引いたり文法を調べたりしながら古文を読むのが楽しくて。

── ある程度進路の方向性は決まっていたんですね。では、大学に入ってからどうやって学部、専修を決めましたか?

文学部に行くことはすでに決めていました。専修は日本史か国文学かで最後まで迷いましたが、ゆるい空気感が気に入ったので国文学を選びました。

前期課程で受けた『源氏物語』を解説する授業や、歌舞伎の表現を学ぶ授業が特に楽しくて、そういった題材を扱えるという点で国文学に傾いたのもあります。


温かい雰囲気も魅力

── 前期課程では幅広い分野の授業が取れますが、前から文学系の授業を多く取っていたんですね。それでは、現在の専修を選択してよかったと思う点はありますか?

雰囲気がとてもゆったりして優しいです。必修の授業も少ないので、理系に比べれば負担は多くありません。

研究室の蔵書も多く、「蔵書あげます」という連絡をもらったこともあります。「貴重そうな本なのに!」と驚きました。

── 学科や専修の教授や同級生との繋がりはありますか?

同学年が20人くらい、教員が5人くらいいます。同じ授業を履修している人、つまり興味が近い人と知り合いになることが多いです。

4年になって卒論を書き始めると、担当教員との繋がりは強くなりますね。

それなりに人数の多い専修ですが、教員や学生の距離は決して遠くないという印象です。


大学院進学か、それとも就職か

── 次に大学卒業後の進路について聞いていきたいと思います。Dさんが大学卒業後考えている進路を教えていただけますか?

大学院には進学せず、4年生で卒業して就職する予定です。

国文学専修から大学院に進学するのは、毎年各時代で数人、20~30%程度です。

── 就職する人が多数派なんですね。主な就職先などはありますか?

文学部全体だと、出版、メディア系が他学部よりは多いようです。しかし、官公庁や、商社、銀行、メーカーといった民間企業など、かなり様々な人がいます。

── 7、8割の人が就職するとのことですが、3年生から4年生にかけて就活と自分の研究を両立させるのは大変ですか?

演習の発表準備をする時期などは、就活との兼ね合いが難しいこともありますね。

3年生では授業をそれなりに多く取っていますが、4年生になると授業を減らして卒論を書くので、比較的時間に融通が利きそうです。

そのせいか、はたまたそのゆったりした雰囲気のせいか、文学部は他学部に比べて3年生のうちから就活を始める人が少ない印象です。

── 文学部は進路が様々という話がありましたが、Dさん自身はどういった進路を考えていますか?

僕は……ホワイトな職場に行きたいです(笑)。まだ具体的には決まっていませんが、インフラ系には興味がありますね。


高校生にメッセージ

国文学に限らずですが、高校までの勉強と大学の学問は結構違います。

国文学では高校のいわゆる「古文」を扱うこともありますが、現代語訳や文法の勉強にとどまらず、もっと幅広い視点で研究できます。

国語が苦手で点数が取れないという人も、国語ができないからという理由で国文学の選択肢を捨てないでほしいです。
国語を勉強していて楽しいという人も、大学の学問は今やっているものとは違うかもしれません。

いろいろと調べる中で、自分で楽しいと思えるものを専攻にしてもらえたらと思います。


いかがだったでしょうか? Dさんのお話から国文学の魅力や楽しさが感じられましたね!
次回は文学部の大学院で西洋史を学んでいる I さんのインタビューです。お楽しみに!