これまで3回にわたってお届けしてきた東大生にインタビュー工学部編も、今回で最終回。
ラストを飾るのは、この方!
【プロフィール】※情報はインタビュー時のものです
・名前:Hさん
・学年:4年
・学部・学科:工学部建築学科
・出身:石川県・小松高校
建築学科ってどんなところ?
── 建築学科って、どんなことを学ぶ学科なんですか?
一言で言えば、建築の設計ができるようになることを目指す学科ですね。
そのために、環境、建て方の方法論、動線、材料、歴史、デザインなど、さまざまなことを勉強します。
── 建築の設計に関わるあらゆることを学ぶんですね。研究室ではどのようなことを勉強されているんですか?
私は意匠系(デザイン系)の研究室に所属しているので、実験して工学的なアプローチで何かをつくる、ということはしていません。
東南アジアのスラムへフィールドワークに行って、建築的な提案をしたり、千葉の古民家でものをつくったりして建築の理論を深めています。
また、卒業論文と卒業制作があって、卒業制作では建築物の設計をするんですが、私は地方都市の新幹線の駅というテーマで駅の設計をしていました。
── 工学部らしい、ものづくりの要素も少しあるんですね。意匠系と聞くと芸術的なイメージが思い浮かびますが、美しいものや綺麗なものを設計したりはするのでしょうか?
意匠系の研究室にも色々ありますが、実はそういったことはあまりしていません。
建築物をつくるときには、人や社会の問題が関わってくるんですね。
たとえば、住宅をつくるなら人がそこでどう暮らすか、小学校ならどういう教育が行われてどういう人が参画するか、といったことが問題になります。
デザインの勉強も一応やりますが、建築物をつくる上での課題にアプローチすることがメインなので、デザインを主に勉強しているというわけではないんですよね。
── 工学というよりは、むしろ社会学に似ていますね。
そうですね。工学部の王道という感じではないです。
── 大学で建築について学んでいて、高校までの学習内容と関連しているなと思うことはありますか?
物理ですかね。建築では、デザインだけでなく構造の研究も必要なので。
たとえば、日本は地震が多いので、地震が起きても倒れないようにつくるということがとても重要で、そのための構造の研究が進められています。
そのような研究のために力学を使うので、そこで物理が必要になります。
また、建材の種類や加工の仕方によっても建物の強度は変わるので、化学とも関連があります。
理系で習うような、物理や化学、数学の知識は不可欠です。私は文系出身なのでとても困りましたね。
── 理系らしい側面もあるんですね。逆に、文系出身だったからこそ活かせたものはありますか。
歴史の授業は気楽でした。
日本建築史や西洋建築史の授業が結構あって、一級建築士の試験に出てくるんですよ。一級建築士の試験を受けるために授業があるようなものなので。
「工学部」ではなく「建築学科」へ
── 東大には文科三類で入学されていますよね。高校時代はどのような分野に関心があったのですか?
世界史や国語が好きだったので、哲学思想系や歴史系を勉強したいと思い、文三を選びました。
そして、1年の最初に、実際の大学のゼミみたいに少人数で発表をしたり小論文を書いたりする「初年次ゼミナール」という授業があって、そこで哲学思想系のゼミを取ってみたのですが、本当に肌に合わなくて……。
国語が気に入っていたと話しましたが、実は本を読むのが苦手なんです(笑)。
同じクラスの人や授業で一緒だった人と馴染めなかったということもあり、自分は文学部に合っていないのかなと感じました。
── 実際に授業を受け、大学生活を送る中で、元々関心があった分野が自分に合わないと感じたんですね。そこからどのように建築学科を選んでいったのでしょうか?
東大は理転もできるので、文系からでも進学しやすいような理系の学部を色々見ていました。
文学部以外の文系の学部を考えてもよかったのですが、文学部に行かないならどこでもいいやと思って。
そんな中で、1年後期に、英語で論文を書く「ALESA」という授業があったんですが、その授業がたまたま都市論をテーマにしていて、結構面白かったんです。
それからは、工学部の社会基盤学科・建築学科・都市工学科に興味を持つようになり、最終的に建築学科に進みました。
「工学部を選んだ」というよりは、細かい専門で見て、都市建築系が工学部にあったから工学部になったという感じです。
── 入学してからの授業での経験が、進路選択に大きく影響したんですね。実際進学してみてどうですか?
元々は都市に興味があったんですが、都市系の勉強は少なくて、建築・力学系の勉強が多いのは意外でした。
突然大きな製図版を買わされて製図させられたり、模型を作らされたりしたのはビックリしたけど面白かったですね。
まずは大学院へ、その後は人それぞれ
── 卒業後も、今の研究室でそのまま研究をされるんですね。
そうですね。大学で行きたい研究室と大学院で行きたい研究室がそれほど大きく変わることは少ないので、同じ研究室に進む人が多い気がしますね。
── 大学院では、何か新しいことに取り組んだりはするんですか?
いえ、基本的には今やっていることと変わらないと思います。
研究室で研究しながら実際に論文を書くのは修士以降なので、1年生のうちはそのテーマ探しをします。
── では、本格的に研究をするために大学院に進むというわけではないんですね。
そうですね。では何のためかというと、私の場合は就職のためです。
建築業界で就職する場合に、学部卒だと、どうしても職種が限られてしまうんです。
建築の仕事は大きく分けて施工と設計があるんですが、施工は総合職寄りで学部卒でも就ける一方、設計は専門職寄りで多くの場合修士以上しか就けないという違いがあります。
── なるほど。専門職に就くために大学院に進学する、という人が多いんでしょうか?
8割以上の人が院進するので、みんなが院に行くから自分も行く、という人もいますけどね。
その結果、専門職に就く場合もあれば、文系就職をする人もいます。
好きの気持ちで進路を決めよう
── 最後に、高校生に向けてメッセージをどうぞ!
大学に入ると、文理というよりは専門でいろんな分野に分かれるので、その科目が苦手だからとか考えずに、好きかどうかとかで進路を選んでもらえたらなと思います。
工学部は、自分の作るものが社会に役立つのが目に見えて分かりやすくて、楽しみやすいので、ぜひ選択肢として考えてみてください!
いかがでしたか?
これまで全4回、工学部編をお届けしてきました。
この記事を読んで、「工学部って面白そうだな」と思ってもらえたら嬉しいです。
次回のインタビュー連載もお楽しみに!