【東大生が教える】物理の勉強法

地方高校生に、追い風を

はじめに

「物理は公式ゲーだ」

こんな言葉を時々耳にしますが、これは本当でしょうか?

確かに、一部の大学では「教科書に書いてある多くの公式の中から、その問題に必要なものを選び出す」ような力を測っていると思える問題もあります。

しかし、東京大学をはじめとする難関大学では、「物理学の本質を理解しているか」を問うような問題が出題されており、とても公式の当てはめだけで解けるものではないでしょう。

ここでは、そのような難関大学を志望する人向けに、自分や友人の体験などを基にしながら、物理の勉強法の一例を紹介します。


高校物理に微積は必要?

高校の教科書では、大学以降のものと比べて、微積などの数学をほとんど用いることなく物理を説明しています。また同時に、専門書のように微積分を用いて高校物理の授業をすることを、一部では「微積物理」などと揶揄する人がいます。

しかし、私は物理において、微積やベクトルなどの数学は「道具」として積極的に使っていくべきだと思います。ここでは、その理由を「文字」になぞらえて考えてみましょう。

文字がない時代は、情報交換などの大半が口伝えで行われていたでしょう。これでは、後世に正確な記録を残すことができない上に、複雑な情報を処理することが出来ません。

しかし、文字の発明によって、それらのことが出来るようになりました。
現代では、「手段」としての文字の性質を高めた「速記」などが、国会の会議録作成など、様々な場所で用いられています。

一方で、手段であるはずの文字自体を「目的」にしたものもあります。

その一つが「習字」です。習字はただの道具でしかなかった文字の美しさを追求していくもので、速記などの「手段文字」とは一線を画するものだと言えるでしょう。

では本題に戻り、物理における数学はどうでしょうか。

これは前者のように「手段」としての数学だと思います。

逆に、大学入試の数学で出るようなものが、習字などと同じ、目的としての数学だと言えます。たとえば、高校物理において、確率の計算などを用いるような場面はほとんどないでしょう。

物理で用いる数学は、高校から登場するベクトルや微積分をはじめ、言わば自然の世界にはない「人の手によって創られた数学」だと言えるでしょう。

このような、物理学からの要請によって誕生し共に発展してきた「物理数学」は、物理学を正確に深く理解するために必要不可欠ではないでしょうか?

確かに通常の高校物理に比べると、数学を用いて記述する物理学は、新たに学ばなければいけないことがあり、大変ではあるでしょう。しかし、それだけの価値があると私は思います。


物理学を理解する

大学入試は教科書の内容を基にして出題されるので、教科書を完璧に理解すれば、入試で満点を取ることはできると言えるかもしれません。

しかし、教科書だけで物理学を完璧に理解することは難しく、従って難関大学の入試で満点を取るのは難しいでしょう。こう言うと「それでは教科書の意味がないじゃないか」という言葉が聞こえてきそうです。しかしそうではなく、これは「高校の教科書が、物理を志す人だけでなく、生物など他の分野を志望している人へも向けて作られているからだ」と私は考えています。とは言え、もちろん教科書の内容を理解することはスタートラインであり大切なことです。

そもそも「物理を理解する」とはどういうことでしょう? 私は「原理を理解し、他の問題にも応用できる」ということだと思います。公式を全く用いてはならないということではありません。公式では対処できない難しい問題に出会った時に、すぐ原理に立ち返り必要なものに切り替えられるということが大事です。私の恩師が「物理は『知識を学ぶ科目』ではなく『考え方を学ぶ科目』だ」と仰っていましたが、まさにその通りだと思います。

教科書だけで物理学を理解するのは難しいですが、一方で慣れない専門書や学術論文を高校生が読んでも、労力に見合うだけの成果を得ることは難しいでしょう。そこで、ここでは高校生が物理を理解する手助けとなるような、1冊の参考書を紹介したいと思います。

それは、駿台文庫の『新物理入門』です。タイトルに「入門」とありますが、その内容は東大京大受験者でも難しいと感じるレベルで、高校物理と大学以降の物理学との橋渡しになるような本です。この中では周回積分のような少し高度な数学が出てきますが、その使い方は専門書とは違い、数式をいじって深く追っていくためというよりも、簡潔に分かりやすく表記するために使われています。そのため専門書を読み解くような数学力のない高校生でも学びやすい本となっています。(ただし、専門書では数式を用いるところが言葉によって説明されているので、理解するのが大変であることには変わりはありません。)

勉強方法としては、高校2年生以下の人は一つ一つの式や説明を全てノートに書いていきながらその過程をゆっくり追っていくことをお勧めします。それにより、「一見当たり前に思えるが実は非自明である」ような内容を見つけられ、自分の理解を深めることができるでしょう。しかしこの方法は莫大な時間を要するため、受験生の人は一通り理解した分野について物理入門を辞書のように用いながら、必要な部分だけ書いて理解していくのが良いでしょう。

また最近は「ヨビノリ」(予備校のノリで学ぶ「大学の物理・数学」)をはじめとする教育系YouTuberの動画や、スタディサプリ・学研プライムゼミなどの有料動画コンテンツが数多く出回っています。塾などに行っていないが学校の授業以外で学びたいという人や、物理入門を読む取っ掛かりにしたい人などは、このようなものを用いてみるのもいいでしょう。


演習は大切

上で紹介した『新物理入門』をただ読み込んだからといって大学入試で点が取れるわけではありません。野球のルールブックを読んでも試合で点が取れるわけではないでしょう。実戦で学んだことを自在に使いこなせるようにするには、演習を積むことが重要です。

取り組む問題については、1・2年生や3年生の前期などでは『リードα』・『セミナー』などの学校指定問題集や『体系物理』などの問題文が短い問題集をやり、受験が近づくにつれて『標準問題精講』大学の過去問に手をつけていくのが一般的です。『難問題の系統とその解き方』、通称「難系」という問題集(最近改訂されて2冊になったようです)などもありますが、これに収録されている問題は数が多い上にかなり難易度が高く、一つ一つの問題もかなりの曲者なので『標準問題精講』をおすすめします。しかし難系も1問ごとに得るものが他の問題集と比べても多いので、上にあげた問題集が終わって時間と余裕があるのなら、取り組んでみるのも良いでしょう。また過去問については基本的に、解説が充実している駿台文庫の「青本」がおすすめです。

予備校に通っている高卒生に関しては、予備校の授業で用いたテキストを何度も復習することが何よりも大切です。ここで重要なのが、問題そのものを復習することではなく、習ったことが充分使いこなせているかをその問題を通して確認することです。通常の問題集とは異なり、予備校のテキストでは授業内容をうまく反映させた問題が選択・創作されています。そのため安易に演習量を増やそうとして復習が不十分のまま市販の問題集に手を出すのではなく、ノートを見なくても全て思い出せるというレベルまで何度もテキストを繰り返して質を高めることが大切です。

最後に演習の方法についてですが、過去問や模試以外では、過程もノートに書いていくべきだと思います。これは後で復習する際に、どのような部分で間違えたのか、もっとスマートに解くことができなかったかなどを考えることができるからです。特に後者は重要で、物理では使う式の選択で大きく計算量が変わってきます。例えば弾性衝突の問題で、はね返り係数の式(e=1)を用いるかエネルギー保存則を用いるかでどのくらい変わるか試してみれば分かるでしょう。過去問演習については計算スペースの量を本番に寄せて演習してみるのが良いと思います。東大は記述式ですが、京大などは答えだけを記入する解答用紙なので、問題用紙の狭い余白で計算しなくてはいけません。そのような問題に対してどう対処していけば良いかなどを学んでいくのも良いでしょう。


分野別の勉強法

力学

力学は物理の根幹とも言える分野であり、他の分野の基礎になっています。その上力学は物理の中でも最初に習う分野なので受験生の理解度も高く、レベルの高い争いになることが多いです。仕事への深い理解、2体・多体運動における重心運動と相対運動、中心力と面積速度一定の法則(角運動量保存則)などは、余裕があれば見ておくと良いと思います。

熱学

熱学は入試において波動と隔年で出題されることが多い印象ですが、波動よりも受験生の理解度が高いです。熱力学第一法則を軸として、定積・定圧・等温・断熱過程における熱・仕事・内部エネルギーの関係は特にしっかりと押さえておきましょう。

波動

この分野は受験生の理解が薄いため、しっかり押さえておけば大きなアドバンテージになるでしょう。ドップラー効果・定常波の数学的表現・凹凸レンズ・波の干渉など、内容が多岐にわたるため大変ではありますが、時間を多めにとって克服していくと良いでしょう。

電磁気学

多くの人がつまずく分野であり、最大の難所とも言えるでしょう。電気分野において、特にガウスの法則やコンデンサーの原理については、公式を暗記しただけで本質を何もわかっていない人が多いように感じます。これらの部分は公式に頼らずに、なぜそのような式が得られるのかを一度自分でしっかりと考えてみてください。磁気分野についても同様で、公式に頼りきりの人が大半だと感じます。電磁誘導やRLC回路について、自分で公式を導出することを、一度でいいので行ってください。

原子

この分野にまで手が回らない人も多いと思われますが、原子分野は物理の入試問題で一番解きやすいと言っても過言ではありません。原子分野は前期量子論と原子核分野から成りますが、前者については、アインシュタインやボーアなどのノーベル賞論文が基になっているので、論文の内容から外れにくい=どの大学でも問題が似ているのが大きな特徴です。そのため冬休みなどの期間に一度集中して取り組めば、入試でかなり高得点を取ることができるでしょう。後者の原子核分野については、「質量とエネルギーが等価である」、つまり円とドルのように、質量はいつでもエネルギーに「両替」できるということを常に意識しておけば大丈夫です。


おわりに

ここでは物理入門や演習の方法など、様々な勉強法について紹介してきました。ただし、勉強法に正解はありません。「ノーフリーランチ定理」というものがありますが、これは「あらゆる人にとって最適であるような方法は存在しない」ということを示しており、この勉強法が完璧ではないことが分かるでしょう。

ここで紹介する勉強法が合う人もいれば別の勉強法のほうが合うという人もいるでしょう。合わないと感じた時は別の勉強法と組み合わせてみるなど、何か策を講じるのもありだと思います。自分にとって最適だと思える、自分だけの勉強法を模索してください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。