【東大医学部】医学の入り口を覗いてみよう

地方高校生に、追い風を

東大医学部

はじめに

こんにちは、医学部医学科3年の大瀧と申します。今このページをご覧になっている方は、将来医学部への進学を真剣に考えている高校生から、「東大医学部ってどんなとこだろう」というちょっとした興味でページを開いた方まで様々だと思います。医学の勉強を始めてまだ約1年という私の書く拙い文章ですが、少しでも医学というものへの関心を深めていただけたら幸いです。

医学部とは

東大医学部には、医学部と健康総合科学科という2つの学科があります。

医学科

医師免許を取得し、医師として活躍する人を養成する学科です。
いわゆる理科三類に合格した人たちはこの道に進みます。
詳細は後述します。

健康総合科学科

詳細は健康総合科学科のHPに譲りますが、健康に関することを幅広く扱っており、大きく分けて3つのコースに分かれています。

環境生命科学専修

基本的に生物学を勉強しますが、理学部生物学科との違いは「ヒト」に完全にフォーカスを当てていることです。ミクロからマクロまで多様な視点で「ヒト」の研究をしているところです。

公共健康科学専修

いわゆる「疫学」と呼ばれる分野を勉強できるところです。薬や予防のためのワクチンがどのくらい効いているのかを調査したり、調査から得られたデータを解析する手法を学んだりできます。予防医学の重要性は海外で特に注目されている分野でもあります。

看護科学専修

看護師を志望する方が選ぶ専修です。東大の場合は免許の取得に止まらず、栄養学や心理学に社会や文化、環境といった視点を加えて「人間が関わること」を広く勉強し、世界で活躍する人の養成を目指しています。

いずれの専修にしても最終的には「ヒトの健康」に落ち着きます。東大生の中でも「どんなことやってる学科なんだろう」と思っている人は少なくないと思いますが、調べるとなくてはならない学科の1つだとわかります。

医学科で勉強すること

ここから先は医学科に焦点を当てて話を進めていきます。

医学科の勉強は大きく分けると、基礎医学、臨床医学、社会医学の3つの分野からなります。

基礎医学はヒトの身体(と病気を引き起こす病原体)のメカニズムを分子レベルから肉眼レベルまで多くの視点で理解する学問になる一方、臨床医学は実際に起こる病気というものをベースに症状や診断、治療方法などを理解していく学問です。そして各症状の背景には基礎医学の知識が基盤となっています。

社会医学には1人1人ではなく集団をターゲットとして病気の発生原因の特定やその予防に務める疫学や、死体の解剖から死因を特定したりDNA鑑定を行う法医学などがあります。

東大では特に基礎医学の研究者を養成することに力を注いでいるため、4年生修了後から一時的に医学部を休学して博士課程に飛び研究に専念できるPhD-MDコースや、日々の講義や実習による授業とは別に研究活動を行うMD研究者育成プログラムなどのシステムもあります。また、自然科学の純粋な興味や疑問から始める基礎研究に対して、「この病気を治せないだろうか」という問題提起からアプローチを始める臨床研究というものもあるのですが、臨床研究者を養成するためのプログラムも東大では用意されています。

卒業までの流れ

C1・C2(1年生〜2年生の夏)

晴れて理科三類に合格し、入学した新入生にとっては駒場キャンパスでの1年半が息抜きの期間となっています。他の科類の学生と一緒に教養科目(高校の数学や理科や英語の延長などなど)を勉強しながら、自分の趣味やバイトに明け暮れている学生が多いですね。
一方、東大では進学選択という制度によって理科三類以外の科類からも定員は少ないですが医学科に進学することが可能になっています。ただし、人気のある学科なため大学での成績が良くないと入れません(私も理科二類から進学した1人で、駒場では頑張って勉強しました)。文系から理転する人もいますが、本当に凄い人たちです。

M0(2年生の秋〜2年生の冬)

ここからは本郷キャンパスで本格的に医学科の勉強が始まります。以降は基本的に全ての授業が必修(選択ではなく必ず受けなければならないということ)になります。
せっかくですので、執筆当時(3年夏)までに勉強したことを簡単に紹介させていただきます。
M0では3年への準備段階として、主に生化学と組織学を学びます。

生化学

化学とありますがどちらかというと細胞分子生物学という分野になります。数年前にノーベル賞受賞で有名になったオートファジーの仕組みや、DNAの複製・転写・翻訳のより詳細な機構(高校生物の延長ですね)、糖・アミノ酸・脂質がどのように代謝されるのかなどをここで勉強します。

組織学

身体の中の筋肉や神経、皮膚などがどのような細胞から構成されているのか、そして各器官(肝臓とか、腎臓とか、腸とか)のミクロレベルでの構成とそのはたらきについて勉強します。顕微鏡で観察しながらスケッチもします。

他には、患者への薬の効き目などのデータを処理して分析する方法や、ヒトの遺伝学、動物実験を行うにあたって注意することとかもこの時期に勉強します。

また、学生少人数と臨床の先生によるグループワークの授業もあり、「このまま放っておくと病状が悪化してしまう患者さんが通院してくれなくなった」などのケースに対して自主的に調べたり話し合ったりすることもあります。

M1(3年生)

3年生ではさらに基礎医学における様々なことを学びます。

解剖学(マクロ/脳神経)

約2ヶ月かけて数人1グループで1人のご遺体(本物のヒトです!)を解剖していきます。実物を生で見て触ることを通して血管、神経、筋肉の向きや走行、はたらきを理解していきます。ここではとにかく身体中のいろんな解剖学用語を日本語+英語/ラテン語(将来英語で論文を読んだりするときのために)で覚えることになり、暗記の負担は膨大ですが、実際の疾患と関連づけをしていく(例えば、この神経がダメになるとこことここの筋肉が収縮しなくなり、肘が曲げられなくなる、とか)ことによって理解が深まるので私は楽しかったです。

解剖のラストは脳になります。脊髄や大脳の肉眼での観察に加えて、ミクロレベルでの細胞の構造についても勉強します。記憶で有名な海馬や感情に関係する扁桃体もここで勉強します。

微生物学

ここでは目に見えないような微小な生物について勉強します。ヒトの体内には実は多くの細菌が住み着いていますが、その関係が共生ではなくなると病気という形で表れます。具体的には細菌やウイルス、寄生虫がどうやって人の体内に侵入するのか、毒素はどうやって分泌され、人にどのように及ぼすのか、どんな治療法があるのかなどを勉強します。「インフルエンザウイルスのワクチンにハズレの年が生じてしまう理由」といった私たちに馴染みのある話題から、世界三大感染症の「エイズ・結核・マラリア」まで取り扱われます。

この他に夏までに勉強することとしては、高校の生物で習う免疫の延長に相当するものがあります(免疫学の先生方、省略してごめんなさい)夏休みが明けると、いろんな視点で体内の仕組みを維持すること(例えば心臓の拍動であったり、ホルモンの分泌によって身体の調子を整えたり……恒常性といいます)を勉強する生理学や、薬が病原体にどのように作用するのかを勉強する薬理学、病原体や癌が分子レベルでどのように作用するのかなどを勉強する病理学などが待っています。

M2(4年生)

M2になると臨床科目の講義が始まります。外科、内科、小児科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、産婦人科、皮膚科、整形外科、精神科などなど…私にも未知の領域ですね。

11月にはCBTという全国の医学部生が一斉に受けるコンピュータを使った選択式のテストと、OSCEという診察や救急の実技試験があります。ここをクリアすることが医学部生の1つの重要な山場と言われています。年明けからは病院実習が始まり、今まで勉強してきたことと実際の現場の様子がつなぎ合わさっていきます。実際に医者になると患者さん1人1人と話すことのできる時間は限られてくるので、この実習期間は患者さんの声をゆっくり聞くことができる貴重な時期だとも言われています。

M3・M4(5,6年生)

M2の1月から始まる実習の続きになります。
なお、6年生になると東大では海外の病院で実習を受けたり、東大の病院やその他の病院でも特定の科でもっと深く実習を受けたり、M1でやった解剖を臨床を学んだ上でもう一度やり直したりできる期間があります(どれをやるかは自由に選択できます)。
そして卒業前には医師国家試験があり、合格するとようやく医師免許を手にすることができます。

卒業後

卒業後は多くの学生が初期臨床研修といってマッチング(就活の医学部生バージョンと思ってくれればいいです笑)で決まった配属先の病院で2年ほどいろんな科を回って研修をします。その後は専門の科を選んでさらに2,3年その科を究めることになり、そこまで進んでようやく一人前の医師と認められるかな…?といった感じです。
基礎研究の道を選ぶ人は、卒業後大学の博士課程に進むことが多いです。そしてそのまま所属の研究室で研究を進めていくことになります。もちろん、ここで研究向いてないなと感じた人は(保険で医師免許を取っているので)臨床の現場に戻ってくることもありますし、逆に現場での臨床医としての活躍から途中で退き、新しく研究の道に勤しむ人もいます。大学付属病院や総合病院で患者と向き合いつつ研究も少しずつ進めている方もいます(とはいっても実際には両立は厳しく感じ、途中から臨床一本になる人が多いようですね)。

最後に

ここまでいろいろなことをつらつらと書いてきましたが、医師にとって知識を身につけることは勿論ですが、患者のことを本人の気持ちや家庭、経済的事情なども合わせて総合的に考えて接することができるか、現場で働く医師や他の職種の人たちといかにうまくコミュニケーションをとれるかが重要な要素になってくるのではないかと思います。

私はまだ将来どんな方向に進むのかはっきりと決まっているわけではありませんが、勉強する中でその事は常に考え続けていきたいですね。

将来医学部を少しでも考えている高校生の皆さんは、(科学的に完全に正しいかは置いといて)最近流行りの医療ドラマや小説に目を通したり、ニュースで出てきた病気についてスマホで調べてみたり、病院に行くことがあれば診てくれたお医者さんの様子を観察してみたりすると、ちょっとは医学というものに対して距離が近くなり、新たに気づくこともあるかもしれませんよ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!