【東大法学部】法学部での学び

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【東大法学部】法学部での学び

はじめに

このページに足を運んでいただきありがとうございます。法学部第一類3年の髙橋と申します。このページでは、東大法学部の特徴や学生生活、法学部でどんなことを勉強するのかといったことをお話していきます。少しでも東大法学部や法学そのものに興味を抱いていただけたら幸いです。

法学部とは

東大法学部では類という制度を設けて、法学部の誰もが政治や法学を学習できるようにしています。法学部の類は4年生進級時に他の類への転類が容易であり、履修の仕方によってはどの類に所属していても内容上かなり似た学習ができるようになっています。他学部の学科のように高い障壁で区切られているものではありません。学生は以下の3つの類のいずれかに所属しています。

第一類(法学総合コース)

第一類の特徴は法学・政治学の科目の中で選択できる科目の自由度が比較的高いことです。筆者も第一類ですが、同じ第一類の友人と互いの時間割を比べてみると履修している科目にかなりの違いが見られます。また、外国語科目が必修であることから、法学を幅広い視点から理解することを目指す理念が窺われます。将来は公務員や民間企業に就職する人が比較的多いです。

第二類(法律プロフェッションコース)

第二類の特徴は必修科目が他の科類に比べて多いことです。必修科目のほぼすべてが、憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、商法、行政法といった司法試験に合格するために必要となる科目です。そのため第二類は弁護士、検察官、裁判官などの法曹志望者を中心に、将来「法律のプロ」となることを目指す学生が多く集まっています。

第三類(政治コース)

第一類と同様、第三類は選択できる科目の自由度が比較的高いですが、「政治コース」という名前の通り、取らなければならない政治系の単位が多いことが特徴です。また、第三類のもう一つの特徴として、リサーチペーパーの提出が必須であることがあります。これは他の学部でいう卒業論文のようなもので、法学・政治学の特定科目のテーマについて、指導教員の指導を受けながら、一定程度掘り下げた研究を行ったうえで論文を執筆するものです。民間や公務員、研究者など多様な進路を志望している人がいるように見受けられます。

ちなみに、どの類を選んだとしても、卒業までに取らないといけない単位の数は80単位と共通です。ただ、後述の通り法学部の授業は2年生から前倒しで開講されるので、80単位全てを3,4年生で取得する必要はありません。

法学部の授業

法学部の授業形態には講義演習の2種類があります。

講義

さまざまな規模の教室で、教員が語りかけるというのが基本です。先生が一方的に話し続ける形態になりがちですが、先生方もその道の最先端の研究を続けている方ばかりですから、含蓄豊かで興味をそそられ、印象に残る内容も多いです。また、講義のなかにも、憲法や民法第一部など、誰もが履修するような定番科目もあれば、医事法や都市行政学、情報社会と法など、特定の先端的な課題について講義する特別講義と呼ばれる科目もあります。

演習(通称ゼミ)

演習は、特定の主題について自ら調査・発表し、教員や他のゼミ生と議論をしてその主題について議論を深めることが狙いです。30名以下の少人数で開講されることが基本で、講義形式の授業よりも教員や他の履修者との距離が短く、交流を深め、より切磋琢磨することができます。東大法学部では、どの類に所属している学生も、最低1回はいずれかの演習を履修することが求められていますが、自分の興味関心に応じてさまざまな演習に参加する学生も多いです。

法学部で勉強すること

例えば、民法709条という非常に有名な条文を例にとってみます。

(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したものは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

ここでは「故意」というのは「わざと」、「過失」というのは「不注意で」くらいの意味だと理解してもらえたら大丈夫です。709条は、不法行為制度の中核となる条文です。不法行為制度とは、「他人の行為または他人の物により権利を侵害された者(被害者)が、その他人または他人とかかわりのある人に対して、侵害からの救済を求めることのできる制度」です(潮見佳男著『基本講義 債権各論Ⅱ』1p)。

自らの権利を侵害されたら、相手に救済を求めることができる―非常にシンプルなことを言っているようにも思います。しかしながら、709条一つとってみても、考えないといけない問題は多岐にわたります。例えば、以下のような論点が挙げられます。

因果関係の問題

2つ以上のものの間に原因と結果の関係があることを因果関係といいます。不法行為の場面で損害賠償を認めるためには、加害者の行為が原因となって被害者の権利や利益が侵害されたという結果が発生したこと、つまり両者の間に因果関係があることが必要です。
しかしながら、何をもって因果関係があると判断するかは時として難しい問題です。その典型例が公害です。工場の稼働による汚水で水質汚濁が発生し、近隣住民の健康被害が発生したとします。水質汚濁から健康被害への過程は目には見えないメカニズムで動いている以上、何をもって、工場の稼働が原因で健康被害という結果が発生したと判断するのか ― その枠組みが必要となります。

損害の算出方法

仮に加害者の行為と被害者の権利や利益の侵害について因果関係があると認められても、被害者に具体的にどのような損害が発生し、どのような形でその損害分を算出するのかが問題となる場合があります。
例えば、公害で化学物質が体内に取り込まれたことで体が自由に動かなくなり、働けなくなった場合のことを考えます。賃金などの将来得られるはずであった利益は逸失利益(いっしつりえき)と呼ばれます。将来得られるはずだった利益が得られなくなったことも立派な損害ですから、被害者は逸失利益分も加害者に賠償請求ができるはずです。しかし、もし事故が起こらなかった場合将来得られたであろう利益がどれくらいの額だったかなんて本当のところは誰にも分かりません。とはいえ、被害者側に逸失利益分の損害を認めるなら、その算出をする必要があります。そのため、どのような統計的データを用いて、どのような算出方法を採るのが妥当と考えるかが問題となります。

実際に法を運用し、以上のような事例や他の様々な論点に対処するためには、法の解釈という作業が必要不可欠となります。解釈は判例や他国の事例、時には法律が作られた際の立法の議論なども参考にしつつ、妥当な見解を探求する行為のことです。

一体なぜ解釈という作業が必要なのでしょうか。それは世の中で起こっている様々な事象のうち、どのような事態が、どの条文の要件に該当するのかを予め記述しておくことは不可能だからです。また、仮に世の中のあらゆる事態に対して網羅的に対処できるように条文を整備できたとしても、要件を満たした場合の効果(709条で言えば、効果は「加害者が賠償する責任を負う」ことを指します)が条文に載っている内容で妥当なのかは議論が残ります。このように、実際に法を運用していくには解釈という作業が必要不可欠なのです。

以上のように、法の趣旨を解釈によって探求していく学問を法解釈学といいます。法学系の科目の大半はこれにあたります。法解釈学は、社会で実際に用いられている法である実定法に関する研究を行う実定法学の主要な学問です。(ちなみに実定法とは異なる法概念として、人間や事物の本性をその基礎とする自然法があります。高校世界史で習った方もいるかもしれません。)一方で、法学の基礎をなす理論的な学問分野の総称を基礎法学と呼びます。基礎法学を通じて、より多角的な視点から法を分析することができるようになります。以下に簡単に例を挙げておきます。

  • 法社会学…法にまつわる社会の現象を分析する学問。
  • 法哲学…法と法学の諸問題を原理的なレベルにさかのぼって哲学的に考察する学問。
  • 法史学…過去の法現象、法制度、法的慣行、法観念、法思想などを研究する学問。
  • 比較法学…各国や各社会の法を比較研究する学問。

もちろん東大法学部では法学だけでなく政治学も学べます。筆者が第一類のため政治学の学問紹介は割愛させていただきますが、政治学も大変刺激的な学問です。文献を通じて高校の現代社会で出てくるような歴史上の政治思想家の思想を深く探求したり、統計学的な手法を用いて選挙制度と選挙結果などの因果関係などを分析したりするようなことも行います。

進振り

文科一類の学生の大半が法学部に進学します。文一の学生の場合、前期教養学部で取らないといけない単位を取り切ればほぼ確実に法学部に進学することが可能です(2020年現在)。いっぽう、他の科類から法学部に進学しようとする場合はある程度良い成績を収めなければなりません。

卒業までの流れ

1年生

文一の学生を含め、法学部の専門科目は開講されません。ただ、前期教養学部の準必修科目として「法Ⅰ」や「政治Ⅰ」などの法学や政治学の入門科目が開講されており、これらを履修する文一生も多いです。文一生は、自分が興味ある分野を中心に、法学に限らないさまざまな教養科目を履修します。またすでに司法試験を目指すことを決めているような人の中には、1年生のころから司法試験予備校に入って法律の勉強を進めている人もいます。

2年生

本来は後期課程の専門科目は3年生から開始されるはずなのですが、法学部の場合は前倒しで2年生の4月から法学部の専門科目が開講されます。駒場キャンパスの900番教室という大教室で、憲法や民法、刑法などの科目の基本を1年かけて勉強します。

3年生~4年生

各類に分かれて自分が取りたい、取らなければならない科目を履修する一方で、司法試験予備試験や国家公務員試験にチャレンジする学生もたくさんいます。東大法学部では自発的に各種試験の勉強会が生成される土壌があり、その勉強会で交友を深めたり、仲間と切磋琢磨して法学への理解を深めたりします。

卒業後

2019年のデータによると、民間就職者は96人、公務員となった人は47人、法曹や研究者などを目指して大学院に進学した人は83人となっています。以前は東大法学部といえば公務員や法曹、研究者になる人がほとんどで民間就職者はあまりいなかったようですが、現在ではむしろ民間就職者が全体のかなりの割合を占めていることが分かります。

最後に

筆者は前期教養学部時代に、「災害復興と法」という、防災や災害復興に法がいかなるかかわりを持つべきかについて考えるゼミに入っていました。そのゼミの中でのとある外部講師の講演が印象に残っています。その講師の方は大学の教員を務めるかたわら、震災などの災害に遭った方を弁護士の立場から支援する活動を行っていました。

「災害に遭ったら、まず何よりも役所にり災証明書を発行してもらってください!この証明書があるかないかで、その後に受けられる支援やその手続きの早さが全然違ってきます!」「震災が起こっても、手続きさえ踏めば、予め法律で定められている内容はちゃんと履行されるはずです」と熱っぽく語るその講師は、他の誰よりも法や法律の持つ力を信じていたように感じられました。筆者は今でもたまにこの講師の姿を思い出しては、法や法律が秘めている大きな可能性について考えさせられます。

法律はこの社会の在り方を規定しているものです。法学部で既存の法の趣旨をとらえ、それを活用していくための素養を養うこと、現実世界を法律という観点から分析し、それが正しいのか問い続けることは、皆さんにとっても、皆さんを取り巻く社会全体にとっても有意義なものになると思います。皆さんが今後法学を学ばれる日が訪れることを心からお待ちしています。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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